十功徳品／無量義経
--------十　功　徳　品　偏-------

良識ある者よ（善男子）。
この経の功徳の八番目の不思議な力とは、もし、良識ある男子（善男子）か、良識ある女人（善女人）が、仏が生きていた世、 或いは仏が去った世に於いて

この経を得て修行する者が居たならば、この者は仏身と見なされ、誰からも信頼されて敬われるだろう。そして、仏と異なる事無く、 仏と等しくもてなされるであろう。

この経を常に手元に置き、教えを忘れない為に経を唱え、心の安らぎを得る為に書写し、教えに従って行動し、 戒律や忍辱（懺悔）をしっかりと修行する。

それに加えて布施（檀度）波羅蜜を修行する為、心の奥底から慈悲の心を起こして、これ以上ない最高の教えである大乗仏教の無量義経を 広める為、人々に聞かせ歩いた。

もし、先立って人が来たとし、その人たちが皆自らの行いによって罪や福が現れる事を信じられない者たちで有るならば、 この経をもってそれを示し、様々な例え話（方便）を用いて、粘り強く人を導き、自己の判断によって確信（信）させた。

経の人を服従させる力を借りて、その人に自己の判断で確信が得られる心（信心）を起こさせ、何回か自然の森の中で自炊させた。

既に、自らの判断で確信が得られる心（信心）を持ってる者は、何も恐れる事無く苦行に精進して、この厳かで徳の高い経を得、 更に、修行する手段（道）や四果を得る事が出来る。

これらの理由より、善男子（良識ある男子）や、善女人（良識ある女子）は、功徳を受けて所化（修行僧）と成った為、 男であろうと、女であろうと、身をもってすべてのものの実相が空で有る事を認め（無生法忍）、 菩薩の十地に昇り、色々な菩薩に仲間入りする。

そして、速やかに人々を輪廻から脱出させ、更に仏の国を清める事で、遠からず最上の完全な悟りを得る事が出来る。

良識ある者よ（善男子）。
これが、この経の八番目の不思議な功徳の力と名付ける。

良識ある者よ（善男子）。
九番目のこの経の不思議な功徳の力とは、もし、良識ある男子や女子（善男子・善女人）が、仏の居る世、 或るは仏が去った世に、この経を聞く機会を得て、

跳びはねるほど喜び、今までに味わった事の無い感動を得た後、経を忘れ去ら無い為、声に出して経を読み、 書写して供養し、大勢の人に教えを広める為に、相手を見極めながら、この経の意義を解説する者は

即ち、過去世の行いの報い（宿業）として現れる十悪五逆などの重い罪（余罪）や煩悩（障り）を一瞬で消し去り、 速やかに心を洗い清めて（清浄）、雄弁に真実を語れるだろう。

また、徐々に様々な波羅蜜 で身を飾り、首楞厳三昧（衆生救済の為の三昧）を始めとする様々な三昧を手に入れ、涅槃に入る智慧の門（大総持門）に入り、 四正断の修行を続けられた事（精進力）で、速かに菩薩の十地を超えた等覚（三藐三菩提）を得る。

そして、あらゆる方角の国土に満遍なく身を散らし、様々な姿をもって現れて（分身）、二十五有に輪廻して苦を極める 人々（衆生）をすべて救済して、ことごとく彼岸に解脱させる。

この理由より、この経はこの様な力が備わっているのである。 良識ある者よ（善男子）。 これがこの経の九番目の不思議な功徳の力と名付ける。

良識ある者よ（善男子）。
十番目のこの経の不思議な功徳の力とは、もし、良識ある男子や女子（善男子・善女人）が、仏の居る世、 或るは仏が去った世に於いて、この経を聞く機会を得たならば、

大きな喜びが湧き起る非常に不思議な気持ちが生じ、自ら教えを忘れ無い様にしたり（受持）、経を唱えたり（読誦）、 経を書き写したり、経を供養したり、教えに従って修行するであろう。

また、多くの在家信者や出家信者たちにこれらを勧めて、彼らに教えを覚えさせたり、経を唱えさせたり、 経を書き写させたり、経を供養させたりした。

今まで他人に、この教えの様に修行させたのは、この無量義経（経力）を修行することで、悟りを開いて菩薩（得道得果）に成れるからである。 つまり、あらゆる功徳がこの良識ある男子や女子（善男子・善女人）から生まれたのである。

また、粘り強く人を良い方向に導かせる慈心（情け深い心）の力よって、この良識ある男子や女子（善男子・善女人）は、 その身をもって、様々な陀羅尼門（煩悩を断つ為の戒律）を、長い年月を掛けて実践する。

そして、あらゆるものの存在が因果による事を理解できない初期の凡夫地（四善根） に於いて、とてつもなく多くの衆生を救おうとして立てた菩薩の誓願を立てて、 心の奥底からすべての衆生を救い出す事を決心し、大悲の心を完成させて

すべての生き物に恵み（利益）をもたらす為の教え（善根）を丁寧に集めて多くの人の苦しみを抜き取る。

そうして、乾ききった喉を大いに潤わす沢の水の様な法を人々に分り易く説明し、この法の薬を色々な人々（衆生）に与えて、 すべての者を安らかにし、徐々に見道（預流）へ進み、やがて見道を乗り越えて 菩薩の法雲地に住み着くのである。

命を育む沢の水は万遍なく大地を潤し、例外無く生き物たちがその恩恵に授かれる様に、苦を集めている人々（衆生）を 仏が残した道に入らせた。これによって、この人は遠く無い未来に、究極の悟り（阿耨多羅三貎三菩提）を得るであろう。

良識ある者よ（善男子）。
これが、この経の十番目の不思議な功徳の力と名付ける。

良識ある者よ（善男子）。
この様に比べ様が無い大乗仏教の無量義経は、不思議な仏の功徳の力が事細かに書かれていて、尊んでも損はしない。

多くの凡夫が、すべて預流果・一来果・不還果・阿羅漢果などの聖人に成り、永く生死の苦悩から離れさせて、 あらゆる執着から開放されるであろう。この理由から、この経は『無量義』と名付けられた。

そして、あらゆる衆生に命じて、凡夫地で暮らす様々な菩薩に数え切れない無数の悟りの芽（道牙）を芽吹かせ、 キノコなどの植物の成長を助けする功徳の樹木を生い茂らせた。この理由から、これをこの経の不思議な功徳力と名付ける。」

この時、大荘厳菩薩摩訶薩及び八万の菩薩摩訶薩は、声を揃えて仏にはっきりと告げた。

「世尊よ。
仏が説かれた教えの様に、とても奥深くて不思議なほど優れたこの上ない大乗の無量義経は、順序良く文章が書かれていて、 すべてが真実であり、尊んでも損はしない。

三世の仏たちが共に守って来た教えであり、煩悩が存在する事や六道に落ちる事が無く成り（無有衆魔群道得入）、 あらゆる邪見をもって生死の悩みを壊す事は出来無いのである。

この事より、この経の十功徳にはこの様に不思議な力が有り、大いにあらゆる人々（一切衆生）に無限の恵みを与える。 その為、すべての菩薩・摩訶薩が、それぞれに於いて無量義に集中したり（三昧）、数多くの悪を断つ呪文（陀羅尼門：密教の経典）を得させたり

あるいは菩薩に十地や十回向（忍）の位を得させたり、 あるいは縁覚（辟支仏）に四道四果の証である阿羅漢果を得させたのである。

世尊は我らを哀れんで、快く我らの為に、この様に法を説き、我に法の利益を授けさせた。この様な事は非常に珍しく、 今までにこの様な経験をした事は無かった。しかし、慈悲深い世尊の恩に報いるのは難しい事である。」

この様に大荘厳菩薩が語り終わった。その時、三千大千世界（娑婆世界）は動・起・湧・震・吼・撃の六種に震動し、 更に空の上から天の華である青蓮華・紅蓮華・黄蓮華・白蓮華などの様々な雨を降らし、

更に天の香・天の衣・天の腕輪や首飾り（瓔珞）・天の高価な宝など、無数の品々の雨を降らした。 それらは空中を舞った後降りて来て、仏や、色々な菩薩たちや、大勢の声聞たちに供養された。

天の台所にある食器に様々な味がする食べ物で満たされていて、それらの姿を見ただけでも、香りを嗅いだだけでも自然に満たされた。 天の吹き流し、天の旗竿、天の日傘、天の楽器などが至る所に並べてあった。

そして、伎楽が上演されて、仏や菩薩たちや大勢の声聞たちを歌でもって褒め称えた。 また、南方・西方・北方、及び四隅の方角や上下にある天界もこのようでした。

その時
仏は大荘厳菩薩摩訶薩及び八万の菩薩摩訶薩に告げた。

「必ず、汝らはこの経の深い教えをしっかり受け止め、人を敬愛する心を起し、更に教えの通りに修行して、 多くの人々を安楽へと教え導く為に、教えが世間に伝わる様に心から勤めよ。

常に礼儀をもって人と接し、人に夜昼関係なく戒律を守らせ、多くの人に法の恩恵を授けさせるのである。

汝らよ。
これが真の大慈大悲の心である。そして、衆生救済を願って、誓う事でられた超人的な精神力をもって、この経を守り、 決して疑いをもってためらっては成らない。

汝らは、今から人間が住む大陸（閻浮提）に赴いて、そこに住むすべての者に良く世間の姿を見せたり、聞かせたり、お経を唱えさせたり、 書写させたり、仏を供養させたりすれば、汝らは速かに阿耨多羅三貎三菩提（これ以上ない最高の悟り）を得られるであろう。」

その時
大荘厳菩薩摩訶薩と八万の菩薩摩訶薩は、腰を下ろした座から立ち上がって仏が立っている所に詣ると、 額を仏の足に付けて礼拝した後、仏の周りを何度も回った。

そして、仏の前に跪きながら並び、声を揃えて仏にはっきりと、述べた。

「世尊よ。我らは、我らの為にこの非常に奥が深い最高の大乗無量義を解き明かしてくれた世尊の哀れみを喜んで受けましょう。 そして、我らは慎んで仏の命に従うでしょう。

如来が入滅した後の世に於いて、必ず沢山の人にこの経典を広め歩、すべての者にこの経典を授けさせたり、お経を唱えさせたり、 経を書写させたり、仏を供養させたりするでしょう。

願わくは我らを心配しないで見て下さい。！我らは必ず願力（誓願の力） を以って、一人も残さず、あらゆる人々にこの経を得させるでしょう。

それは、お経を唱えて聞かせたり、それを見せたり、それを供養する為に経を書写させたりし、 偉大な神々が下された品（福）である無量義経を得させましょう。」

その時
仏は褒め称えて述べた。

「素晴らしい（善哉）、素晴らしい（善哉）、大勢の良識ある者達よ（善男子）。今ここに居る汝らは、真に仏の弟子であり、 広大無辺な仏の慈悲を広め、心の奥底にある苦しみを除いて災難から人を救う者である。

また、田んぼが実りをもたらす様に、全ての人々に功徳を積ませる福田でもあり、また、 あらゆる修行をして人を正しい道に導く指導者でもあり、また、すべての人に頼られる者（依止処）でもあり、 また、常に法の沢山の恩恵を人に分け与える者（施主）でもある。」

その時
大会に参加していた者、皆が大いに喜び、仏に礼を尽くし、教えを銘記して忘れないことを誓い去った。